対米ドル(USD)の見地からは、ノルウェー・クローネ(NOK)の動向は主に、次の2つの要因に動意付けられていると考えられる: 1)原油価格(図1)、そして2)欧州通貨の相対的な価値。これに関しては、2018年に、原油とその精製商品がノルウェーの輸出の56.5%を占めていたこと、さらにその輸出先の大方が欧州内であったことを考えると、特別、驚くべきことではない。
原油価格と他の欧州通貨に対して、特に直近の5年、NOKはアンダーパフォームする状況が続いている。他の欧州通貨に対するアンダーパフォームは、対スウェーデン・クローナ(SEK、図2)、対ユーロ(EUR、図3)、そして対英ポンド(GBP、図4)で確認できる。
こうしたNOKのアンダーパフォーマンスに関しては、中銀の金融政策、過剰債務、そして貧弱な景気動向など、通常の要因を指摘することが難しい。一方で、その要因は1つに集約することが出来る。 新しい油田の発見がない中、原油の生産量が低下していることである(図5)。
原油生産の低下は特に、輸出の伸びに対して大きな負荷となっている。さらに、地球上でノルウェーを最も豊かな国にした原油生産は同時に、負の要因を伴ってもいる。近隣諸国が、電話、自動車、電機機器、家具、そして(ブロック玩具の)Legoなど、多くの産業を発展させてきた一方、ノルウェーは依然として、原油や鉱物、そして漁業など、採取産業への依存度が高いのである。
それでも、ファンダメンタルズの観点からは、ノルウェー経済が、それ程ひどい状況であると言うことは出来ない。政府の総債務は対GDP比で32% – 明らかに低水準である。さらに、この債務には、政府が(原油リザーブ・ファンドとして知られている)年金基金に保有する資産が考慮されていない。そして、この基金の総資産は、対GDPで200%に上るのである。結果として、公的資産額から公的債務額を差し引いたノルウェーの財務状況は、対GDP比で、およそ165%となる。並外れた財務ポジションである、と言える。一方、家計債務は対GDP比で100%、企業債務は同132%と高めとなっている。しかし、例えば企業債務に関しては、海外(ノルウェー以外)での売り上げによって維持されている場合も考えられ、対GDP比という尺度が必ずしも適切であるとは言えない。
一方で、5,600億ドルに及ぶノルウェーの海外資産は、ジレンマとなる。もし、これがレパトリ(海外資金の国内回帰)されるとすれば、ノルウェー通貨は暴騰すると考えられ、他の欧州通貨に対して割高となり、依然として未開発の採取以外の産業では、その国際競争力が低下することになる。
よりファンダメンタルズ的な観点からは、ノルウェー経済の良好な状態が指摘できる。例えば、インフレ率は、同国中銀が好ましいと考える水準を若干、上回っていて(図6)、同国通貨の軟調推移が背景であると考えられるこの控えめなインフレ率は、昨年に続いて2019年も、同国中銀に迅速な政策金利の引き上げを実行させている。一方、失業率は最近まで、低下を続けていたが(図7)、経済成長の失速と失業率上昇の前兆とされる、利回り曲線の平坦化がノルウェーでは進行中である(図8、9)。ただし、こうした状況にあっても、ノルウェー経済の状況は、例えばスウェーデンと比べ、(これに関する本稿シリーズは以下に:https://www.cmegroup.com/education/featured-reports/when-will-swedens-sinking-krona-hit-bottom.html) またはユーロ圏と比べ、より良好なものとなっている。
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Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。
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