1月から4月まで、米政権が10%関税を発動するとの見通しを背景に、米国内のアルミ価格は急上昇を見せた。これ以前、米国のアルミ価格は世界平均よりも10%程割高な水準となっていた。そして現在、およそ20%割高な水準となっている。一方、6月1日に関税の適用が発動されて以来、先渡し契約(フォワード)の価格が安定的に推移していることから、市場参加者の多くは現状の長期化を予想していると考えられる(図1)。
関税の結果として、米国ではアルミ価格が一段と割高になるなか、欧州や日本では、割高さが若干、緩和されている。 また、関税を背景に、米国内で消費されるアルミの量は減少すると見られていて、その結果、欧州やアジアでは、若干ではあるものの、明確に供給が過剰な状態になると考えられる。
今回の北米の場合の様に、関税に影響される価格動向には地域性があるものの、その間接的な影響は一般的なアルミ価格にも及んでいる。米国が発動したこの関税によって中国経済の成長スピードが鈍化した場合、または、中国が自国通貨の引き下げを決断するに至った場合、アルミ価格は世界的に下落することになる。銅や鉄鉱石など、その他の工業用金属と同様に、アルミ価格は中国経済の成長と深く結び付いているのである。これに関しては、中国政府が発表する正式なGDPでも、また、電力消費や鉄道輸送量、銀行貸出残高などの拡大率を背景とする「李克強(総理)」指数でも、同様である(図2)。
李克強指数は、先々5四半期までの期間において、アルミ価格との連動性はプラス0.5から同0.6の間となっている(図3)。一方、1年先までの期間においては、中国の正式なGDPの方がより高い連動性を示している。ただ、2015年初め以来、この指標は6.5%から7.0%の幅で推移するなど、例外的とも言える不安定さとなっている。経済の多様化が進むなか、中国がサービス業を主体とした経済に転換していく過程にあることを反映していると考えらえるが、この指標は同時に、中国の工業分野における変動の大きさを、正確に反映していないとも思える。実際、アルミ価格の動向は、工業需要がその主要な背景なのである。従って、アルミに関しては、正式のGDPよりも、李克強指数の方を注視する必要がある。
ここまで、340億ドル相当の中国からの輸入品に対して、米政府が課した関税率は10%に過ぎない。影響という意味では、余りにも小規模であると言える。しかしながら、米政府が対象品目を拡大し、税率を10%から25%に引き上げたとしたら、中国が受ける経済的な影響は無視できないものになってくる。米国に次いで、世界第2位の経済規模を有する中国では、高水準の債務と新興国通貨の崩壊から、既に経済成長の鈍化が始まっている(図4)。 中国経済が一段と失速した場合、さらに中国が自国通貨の引き下げに踏み切った場合、アルミ価格には大幅な下落リスクが生じる。ただ、これによって、割高な米国内のアルミ価格が修正されるとは限らない。しかし、アルミの供給過剰が進めば、欧州や日本のアルミ価格には下押し要因となる可能性がある。
アルミにとって中国が重要である理由は、単純である。世界で生産されるアルミは、その40%から50%を毎年、中国が消費しているのである。中国経済が失速するとすれば、膨大な量となっているアルミの年間生産量を吸収することは、非常に困難なことになる。一方で、例えば2017年に採掘されたアルミの量は6万トンで、1994年実績の3倍以上に達しているのである(図5)。
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Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。
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株価から農産物、金属まで、懲罰的な関税の適用は引き続き、多くの資産クラスに横断的な影響を及ぼしている。米国内のアルミ価格は上昇傾向にあり、先々において、同国の需要が後退し、欧州やアジアで過剰供給となる可能性がある。金属先物やオプションを用いることで、ポートフォリオを護ることが出来る。