原油相場は2014年下半期に大きく値を崩す調整局面に入った。そして、その流れは2015年も続いた。しかし、今後の展開を分析するのは、非常に難しい。需給でいくつか長期的な力学が働いているだけでなく、短期的な要因もいくつか絡んでいるからだ。
供給面をみると、さかのぼること2006年に、米国で革新的な石油抽出技術の進歩があり、石油生産ブームに火がついた。一方、需要面をみると、世界経済の成長状況に大きな変化があり、2000年代初期は新興国ブームに沸いていたのが、2008~09年の大不況後は成長鈍化に転じた。また、輸送機関の燃油効率が、技術革新によって大幅に改善している。短期的要因では、原油安の状況に適応しようとする生産者にみられる時間差をつけながら増幅させていく因果の連鎖と行動的反応、そして米国の原油輸出解禁という政策的反応が挙げられる。
世界経済の成長鈍化、燃油効率の向上、そして抽出技術の進歩を踏まえ、原油相場の長期トレンドについて将来予測的な分析をしたところ、原油安の期間が何年にもわたって続きそうだという結論に至った。結果論になるが、注目すべきと思われるのは、2014年下半期に下落に転じるまで、原油相場が、でき得るかぎり長期にわたり、でき得るかぎり高値にとどまっていたことだ。
本レポートではまず、原油価格を大きく左右するカギになると考えられる3つの長期的傾向について概説する。そして、この3つの傾向に、どのような変化があり得るか見極めたい。
次に「火に油を注いだ」と考えられている事象について検証する。すなわち、2014年11月のOPEC(石油輸出国機構)合意だ。OPECは、たとえ原油安になろうと生産枠を高い水準のまま維持すると決めた。価格が低迷するなかでの生産国の動きから、どのような教訓を学べるか考えてみたい。値動きから生産量の決定に至るまでには、短期的・長期的な因果の連鎖がある。それらが複雑に絡み合っているわけだが、少なくとも2015年には、それが原油価格を押し下げる圧力のひとつとなった。
先ほど述べたように、原油市場には安値を持続させている長期的傾向が、需要と供給の両方にある。需要にみられる長期的傾向は2つ。ひとつは世界経済の成長鈍化、もうひとつは輸送機関における燃油効率の継続的向上だ。一方、供給にみられる傾向は、技術的進歩の速さによるものである。そのおかげで、石油抽出にかかる費用が継続的に削減されているのだ。こうした傾向が数年で反転するとは考えにくい。むしろ、さらに拍車がかかるかもしれない。
A.世界経済の成長鈍化
中国経済は減速している。ブラジルは景気後退にあり、ロシアもそうだ。大半の新興国が成長に悪戦苦闘している。
日本、米国、欧州といった先進国では、うまくいっても実質GDP成長率は2%だ。2016年は、ハードルをさらに下げても、達成が難しいかもしれない。
つまるところ、2000年代初期にみられたコモディティ(商品)への強い需要は、実質GDP成長率10%という中国の成長に支えられていた。多くの新興国がみせた力強い成長は、遠い昔の話となり、復活の見込みがほとんどない。しかも先進国は、2008年以降の環境のなか、低迷よりはマシなものを生み出そうと必死にあがいている。
この見通しが意味するものは何か。それはエネルギー、特に原油に対する需要の著しい伸び悩みである。そして、こうした成長予測を変えられるものが何か不透明であることだ。
中国経済の減速は、主に4つの要因によるものである。
まず、同国の近代化だ。中国は1980~2010年に矢継ぎ早なインフラ投資で急成長を遂げた。しかし、近代化にともない国土開発計画への新たな支出から得られるリターンが減少するという現実に直面している。
次に、人口の高齢化だ。それが国内需要主導の成長モデルに移行するのを、かなり難しくしている。2020年代には65歳超のグループが経済の20%超を占めることになる。退職者一人当たりの支出は、生産活動ができる年齢の個人に比べて、かなり低い。2015年に一人っ子政策が廃止されたことは、2050年の人口問題を緩和する一助となるだろう。しかし、それは10年、20年の話ではない。労働力の成長に実質的な影響を与えられる30歳になるには、30年かかるのだ。
3つ目は、中国が恩恵を受けてきた地方から都市への大規模な移住の減少である。この移住パターンは数十年におよぶ成長を支えてきた。ところが、2020年代には地方人口の割合が減少するため、この経済成長の源泉も同様に減少することになるだろう。
最後に挙げられるのは、輸出の低迷だ。中国は依然として輸出に依存している。しかし主な貿易相手国は、もはやしっかりとした成長を示せなくなった。そのため、輸出は低迷したままである。
重要なことは、中国の成長鈍化を示唆するこれら4つの要因が短期的な政策調整で裏返せるものではないことだ。事実、近代化計画が成功した結果、中国は長期的な潜在成長性が低下していくという、ごく自然な過程に入っている。また、緩やかに変化する人口構造と世界経済の低迷に対処しなければならない。通貨切り下げといった政策は、たとえ貿易相手国との為替レートの下落が今後最もあり得そうな通貨シナリオであっても、さしあたっては成長の大きな支えとならないだろう。
中国経済がハードランディングをして急激に冷え込んでいくとは予想していない。ただ、2020年代の実質GDP成長率は3%という、非常に荒れた道のりとなりそうだ。それはコモディティ全般、特に原油価格を押し上げる材料とはならない。
また、原油だけでなく、多くのコモディティが中国から受けている打撃には“二次的な影響”もある。中国の「影の銀行」が構造的に融資の担保としてコモディティをかなり利用しているのだ。高度成長期にコモディティが担保として利用されていたことは、急成長に関連する以上のコモディティ需要が中国で劇的に増加していたことになる [1] 。
そして、その逆もまた真となる。中国経済が減速し、コモディティ価格が下落しているため、担保のいくらかが市場に放出された。また、融資担保としての新たなコモディティ需要は減っていく。つまり、中国は景気減速が示唆する以上に大きな打撃をコモディティ価格にもたらしているのだ。
2008~09年の景気後退以降、日米欧は成長を押し上げるため、いずれもあの手この手で拡大的な金融政策を試みている。しかし、それは焼け石に水である。高い成長を生み出そうという金融政策が失敗に帰するのは、低成長の根本的理由に取り組んでいないからだ [2] 。
こうした先進国が成長するうえで最初かつ最大の試練となるのが、人口動態のパターンである。人口は増えず、老化していく。労働力の伸びは、ほとんどゼロだ。すでに中国の例で述べたように、需要面でみると、退職者の一人当たりの消費支出は低い。そして人口に占める割合で、この世代が真っ先に拡大しているのだ。
潜在成長率に関していえば、労働力の伸びが皆無に等しい場合、高い成長率を生むためには、労働生産性の著しい向上が求められる。これは、技術の進歩と特大級の設備投資があれば、可能性がないわけではない。とはいえ、成熟した経済で、その実現性は極めて低い。事実、税制と労働市場の抜本的改革なしに(そしてそれはまずあり得ない)、持続的かつ劇的な労働生産性の向上が実現することはなさそうだ。
低い短期金利と中央銀行による資産買い入れ(つまり量的緩和)は、資産価格をそうしなければあり得なかったほどに引き上げることができた。しかし、それで労働生産性を引き上げることができたという確証は、皆無に等しい。
大半の新興国が景気後退もしくは低成長の状況にある。その原因をひとつにまとめるのはそう簡単ではない。コモディティ生産国は、もちろん世界需要の鈍化に苦しんでいる。しかし、ブラジルからトルコに至る数多くの国で、すでに高く、さらに高くなっているのは、政治リスクだ。そして中国に隣接するアジア諸国の成長予測を揺さぶっているのは、その巨大な隣人の成長鈍化である。
もっとも、原因が何であれ、新興国の成長復活を予期するのは、中国もしくは先進国に力強い成長がないかぎり、難しいだろう。そしてどちらも、2016年に起こる気配はない。
B.燃油効率
需要面ではもうひとつ、輸送機関の燃油効率が持続的に向上していることが挙げられる。これについては、あまり正当に評価されていないようだ。しかし、石油精製品の用途からいえば、原油の70~75%は輸送用燃料である。
燃油効率向上への飽くなき挑戦には素晴らしいものがある。そして、それは原油需要の伸びを抑え続けている。実質GDP成長率に対する原油需要の感応度は、長期的に低下傾向にある。
事実、内燃機関(エンジン)で走る自動車の燃油効率が著しく向上する余地は、依然としてあるという。例えば、軽トラックのフレームにアルミニウムのような軽量材を利用する技術だ。また天然ガスが、バスや長距離トラック、鉄道といった輸送機関に食い込み始めている。電気自動車はまだ輸送機関のごくわずかな部分を占めるにすぎないが、蓄電技術の長期的発展が変化をもたらすかもしれない。特に電池がより軽くなり、より効率的になれば、そうなるだろう。さらには、水素を燃焼させ、排気管から汚染物質を出さずに水を出す自動車の将来性は、多くの研究と開発資金を引き付けており、長年の夢であり続けている。
C.リスク要素
以上、世界経済の低成長が非常に高い確率で基本線になると考えている。とはいえ、リスク要素がないわけではない。
まず、中国の景気がハードランディングして急激に冷え込んだ場合だ。世界の成長はさらに鈍化して、ほとんど停滞するだろう。そして、その可能性に25%もの確率があると考えている。そうなれば、世界の原油価格は、一時的にさらに低い水準へと向かう可能性が高い。
次に、供給が混乱する可能性だ。中東の緊張、特にサウジアラビア、イラン、イラクの関係が、どう進展するかにかかっている。現在、世界の供給を損なうような軍事衝突に至る可能性は非常に低く、その確率は10%未満だろう。だが、この可能性の低い事象は、原油価格にとって強烈な強気材料となり得る。したがって、目を光らせておく価値はある。
11月27日、ウィーンでOPECの総会が開催され、減産で市場を支える試みではなく、生産を維持する決定をした。
「ここ数カ月にわたる石油価格の急落に懸念を示しながらも、総会では、石油価格の安定(世界経済の成長に影響を及ぼさない水準であると同時に、生産国が相当の収入を得て、将来的な需要を満たすために投資できる水準にあること)が世界経済の安泰に極めて重大との認識で一致した。よって、市場の均衡を取り戻すため、総会は2011年12月に同意した日量3000万バレルの生産水準を維持する判断をした」[1]
OPECは声明で「石油生産国が自分たちの収入を維持するため、生産を維持する必要がある」と強調した。そしてこれは、原油価格がさらに下落するのではという懸念を煽り、まさにそのとおりの下落となったのだ。
2015年に多くのアナリストが「これは、生産コストが高い競争相手を追い詰めるために生産を増やすという、サウジアラビアの戦略だ」と騒ぎ立てた。しかし、これは「戦略的だった」というよりも「論理的だった」といったほうが、はるかにふさわしいと指摘したい。
大多数のOPEC加盟国はいうまでもなく、サウジアラビアにとって大きな問題は、政府の財政支出計画が「当面の間、原油価格は1バレル80ドル超(もしくはおそらくもう少し高めに)にとどまる」という想定のもとに建てられていることだ。1バレル40ドルでは、国内の基本的な統治構造を揺るがす巨大なリスクを抱えることになる。そうなれば、重要な修正事項なしに、支出と補助金のプログラムを計画どおり続行するのが、ほとんど不可能となるだろう。
事実、サウジアラビアは、債券市場で初の資金調達をするだけでなく、政府支出と補助金の削減に乗り出している。そして、生産を増やすことで、キャッシュフローをささやかながら維持できた。
原油安に対する行動的反応と因果の増幅的連鎖を分析すると、長期的な支出と負債の義務によって、たとえ安値になろうが、少なくとも長期間にわたって生産をしっかり維持せざるを得なかった(そして、そのために価格に生産が反応するサイクルで複雑な遅れを生んでいる)と分かる。この考察については改めて詳しく述べることにする。
A.米国の生産動向
原油価格が急落した2014年10-12月期半ば、多くのアナリストが、どの経済学入門の授業でも教えるようなモデルに基づき、比較的早くに供給が反応すると予想した。しかし、残念ながら経済学入門の需給モデルでは、多くの事柄、中でも債務、時間、キャッシュフローを全く考慮していない。
米国では多くの油井が、予想どおり2005年に閉鎖された。しかし、生産量は大半のアナリストの予想を超える高さにとどまったままである [1] 。最も効率の良い油井からの多くの油を得ることに集中したからだ。
誰もが見誤ったのには、いくつか理由がある。
まず、キャッシュフローと会計報告書の違いを認識していなかった。石油会社は、パパママストアと全く変わらない。現金が一番だと知っている。
これから原油を生産するのにかかる金額を計算するとき、減価償却のような非資金費用だけでなく、投資や資金調達にかかるコストを非常に簡単に入れることができる。しかし、石油会社にとって本当に重要な問題は、これからの原油を生産するのにかかる現金だ。こうした現金コストは、会計原則にそって計算された1バレル当たりで示されるコストよりも、かなり低くなる [2] 。
つまり、会計ベースでは全く収益性のない油井の多くが、将来的な現金ベースでは依然として正味プラスのキャッシュフローを生んでいるのだ。だからこそ、石油会社は依然として石油、そして現金をくみ上げているのである。
債務の問題も同様だ。多くの石油会社が多額の債務を抱えている。自分たちの油井を閉鎖してしまったら、石油のフローどころか、債務の支払いに必要な現金のフローも止まってしまう。長期的に生き残れて破綻を避けられるのであれば、とにかく石油をくみ上げているのも理解できる。
そして、さらなる技術の進歩がある。水圧破砕法と水平採掘を利用する米国の石油会社は、油井をより早く終わらせて、新規の油井をより早く、より低コストで開発するノウハウに、ますます磨きをかけている。「より早く終わらせて」というのは単に、油井が誕生してから最初の数カ月での産出量を急増させることだ。そうすれば、石油会社はすぐに油井を閉鎖して、次の場所に移ることができる。
いまでは掘削装置を次の採掘場に非常にゆっくりとはいえ「歩かせる」ことができるようになった。破砕技術の向上は、抽出結果の改善を導いている。すべてが2015年に重なった。だからこそ、米国の石油会社は採掘装置の数を減らしても、強い生産力を依然として維持できているのだ。
しかし、2016年には変化があるかもしれない。2015年に設備投資が急激に落ち込んだことによる影響が、時間差をつけて現れる可能性である。
石油会社は「より少ない掘削装置で、より多くの原油を得る」という技術的進歩を駆使する一方で、新たな能力に投資をしてこなかった。事実、2015年に合理的に先送りされた設備投資計画のほとんどすべてが、無期限の先送り・延期であった。その間、石油会社は安値環境での自社の経済的な将来性を評価していた。
しかし、2015年下半期には、大半の石油会社が、安値が非常に長い期間続いていると気づくようになった。そして経営の合理化と統合が本格化し始めたのである。
さまざまな抽出技術の向上と新規設備投資の欠如から、2つの結論を導きだせる。ひとつは、原油価格が上昇して、おそらく1バレル50ドルを超えるが80ドルをかなり下回るぐらいの価格帯になれば、新規の生産に再び収益性が出てくるだろうし、以前よりも早くに稼働できるだろう。もうひとつは、2015年に設備投資が欠如し、そして2016年以降も設備投資が欠如しそうなことから、原油価格が1バレル50ドルを下回っているかぎり、2014年15年の水準から著しく減少するかもしれない。
こうした設備投資の影響は、北海のように生産コストの高い地域では、さらに大きいだろう。北海では、10年にわたって石油生産が減少している。また維持費と限界費用が高くなる一方だ。
世界の供給状況をみると、2016年に米国、北海、そしておそらくカナダ・アルバータ州で生産が減少しても、価格に影響はないだろう。イラン産が世界市場に流入することで、おおよそ相殺されそうだからだ。そのバランスがどれぐらいの傾きになるかは不透明である。しかし、全体的に価格への影響は、継続的な上昇トレンドへと価格を押し上げるというよりも、広いレンジ内での短期的な変動要因となりそうだ。
B.米国の輸出解禁
2015年12月、米国産原油の輸出が解禁された。2016年9月までの予算を確保するための法律の一環としてであった。
原油の輸出が禁止されたのは、さかのぼること1975年、ジェラルド・フォード政権期である。当時、OPECが力を増したこと、世界経済に対する米国の影響力が低下したこと、そして低成長と高インフレ(つまりスタグフレーションである)への恐れがあったことから、米国の人々は不安のさなかにあった。
もっとも、長年にわたる大統領令と規則改正で、この禁止措置は、いってみれば完全に骨抜きにされていった。したがって、輸出解禁が原油価格に与える短期的影響は、価格の観点からは比較的小さく、生産を大きく駆り立てる重要な原動力にはならないだろう。
とはいえ、自由貿易の妨げや障壁が取り除かれるたびに、市場の価格発見機能はより強固となり、資本の配分はより効率的になる。つまり、輸出解禁は米国産原油(ウエスト・テキサス・インターミディエート=WTI)の世界的ベンチマークとしての足場を固めることになるわけだ。
以下、米国の輸出解禁に関するいくつかの重要な疑問について、私たちの見解を述べる。
1.実際に何が変わったのか?
旧法では、米国の精製品は輸出が認められており、原油の輸出には免許が必要だった。しかし実際のところ、カナダとメキシコには、外国産原油の再輸出として事実上は自動的に認可されて、米国産原油を輸出することができた。また、一部の原油はカリフォルニアとアラスカから輸出されている。しかもここ数年は、精製品の定義が、原油に少しばかり手を加えたもの(いわゆる「コンデンセート」である)を含めて、緩くなっていた。
輸出解禁で、米国の石油会社は原油を自由に輸出できるようになった。しかし、すぐに原油の輸出量が急増するとは予測できない。事実、2016~17年の原油と精製品を合わせた輸出は、現在のトレンドに概ねとどまりそうである。
2.輸出解禁で米国の生産は増加するか?
答えは「ノー」である。2014年10-12月期に始まった世界的原油安の状況は、依然として続いている。そして長期的な値動きの予測は、将来の生産を大きく左右する。
すでに指摘したように、中国経済は減速中だ。新興国の成長は鈍化している。日米欧は実質GDPで1~2%の成長だろう。需要が大きく喚起されるところはない。
また、技術的進歩のところで論じたように、石油の大半は輸送機関の燃料である。そして輸送機関のエネルギー効率は着実に改善されている。要するに、すでに論じたように、米国産原油の輸出があろうとなかろうと、需要は高値復帰を支援する状況にないのだ。
とはいえ、輸出解禁によってバッケン(訳注:ノースダコタ州を中心に広がるシェール油田地帯)原油など米国産のスイート原油が新たに輸出されることになるので、バッケン原油とWTI原油のスプレッドが狭まる。そのため、米国の石油会社は総じて増収となり、若干の恩恵を得ることになるだろう。
3.ブレントとWTIなど原油の価格スプレッドにどのような影響をもたらしそうか?
今回の改正は、市場の妨げを取り除き、米国産が世界のさまざまな産地の原油との関係をより深めることになる。したがって、世界の原油価格を発見するというWTIの機能をより強固なものにすると考えている。つまり、米国産原油の輸出解禁は、北海産ブレントと米国産WTIのスプレッドを少しずつ縮小させていくという変化をもたらすだろう。
2006年に米国で原油生産ブームが起きる前、WTIとブレントは米北東部の製油所で競合していた。そのため1993~2006年は、ブレントとWTIのスポット価格によるスプレッドは、極めて狭いのが普通で、変動性が非常に低かった。
しかし、生産ブームとともに、価格の高いところに石油を送る能力以上に米国産が増えていってしまった。また、精製品の輸出もまだ始まっていなかった。そのため2011~12年には、ブレントがWTIよりも一貫して20ドル以上高くなったのである。ピークは2011年9月の29.70ドルだ。その間、米国産市場は一時的に遮断させられていた。
2013~14年になると、米国の受渡貯蔵インフラが生産増にかなり追いついてきた。以来、スプレッドは著しく狭まっている。原油解禁は、さまざまな産地間との競争をますます喚起する。したがって、これから数年、ブレントとWTIのスプレッドは、平均するとほとんどゼロになるかもしれない。
ただし、その平均を中心に、スプレッドがかなり大きく変動する可能性はある。例えば、天気や補修のため北海産の供給が混乱し、ブレントの生産減によるベーシスリスクの急増が材料視された場合だ。
4.精製品にどのような影響があるか?
解禁から予想される影響がもうひとつある。米国産原油が、運送費が安く、精製品の需要が高いという条件がそろったところに輸出されるだろうということだ。つまり、米国産原油のアジア向け輸出が徐々に増加するかもしれない。
ただし、忘れてはならないことがある。原油は国というよりも、精製施設(がある国)に向けて輸出されることだ。したがって、米国産原油の輸出先は、競合する生産地との輸送費だけでなく、米国内と世界中の精製能力の発展にもかかっているといえる。
米国の精製業者は極めてコスト効率が高い。実際のところ世界中の競争相手と十二分に渡り合える。ここでも業者は、ますます輸送・貯蔵費を重要視しているのだ。
また大多数の国で、新しく精製施設を建てる許可を得るのが難しくなっている。不可能なわけではないが、ただたた厳しい。新しい精製施設を建てるには、数十億ドル、安定して先が読める需要先、産地から原油を運ぶのが合理的となる輸送費が求められる。
いいかえれば、精製業者に世界的環境の変化があれば、それから数年にわたり輸出に何かしらの変化がもたらされるだろう。ただし急激には起こらない。つまり、原油の輸出が徐々に増えたとしても、おそらく全く問題なく米国は精製品を輸出し続けるだろう。
長期的には、精製業者が輸出競争に適応してくると、原油市場は少しばかり効率的になるため、精製品と原油の価格スプレッドがいくらか徐々に狭まっていくかもしれない。しかし、これには時間がかかるだろう。また、結局は比較的小さな影響にとどまりそうだ。
5.米国の原油輸出インフラはどのような状況か?
輸出解禁で最も大きな影響を受けるのが米メキシコ湾沿岸部である。西海岸やアラスカは、それほどではないだろう。
米沿岸部には、すでにWTIを輸出するインフラが完成しており、原油やコンデンセートを積極的に輸出し始めている。プロパンなどの天然ガス液(NGL)は、いうまでもない(同じ輸出施設を使っている)。しかも、輸出量がどれだけ増えても対処できるだけの能力がある。2016年1月に、米国産原油の積まれた最初の船がテキサスから欧州に向けて出港した。
私たちの分析では「原油安は長期間続く」が基本線となった。
中国主導による新興国の需要ブームはすでに終わった。人口の高齢化による低成長は、先進国の実質GDP成長率を非常に低く抑え続けるだろう。しかも運輸機関の燃油効率が向上したことで、経済成長に対する原油需要の回復力は弱まっている。また供給面では、石油抽出技術のさらなる進化が、コストを削減し、より少ない掘削施設でより多くの生産ができるようにしている。これらは結局すべて、私たちの基本線である「原油安の長期化」につながる。
原油価格の下落要因として挙げられるのは、主に中国経済の劇的な落ち込みによって世界的な景気後退が導かれる可能性だ。ありそうにないが、一考の価値はある。
一方、原油価格の上昇要因として挙げられるのは、中東(おそらくサウジアラビアとイランを含む)での衝突が大きな供給障害を招く可能性だ。これも大きな衝撃をもたらすまでの事象となる確率は低いが、目を光らせておく必要はある。
[1] Shaun K. Roache and Marina Rousset, "China: Credit, Collateral, and Commodity Prices", Hong Kong Monetary Authority, HKIMR Working Paper No.27/2015, Fall 2015.
[2] Bluford H. Putnam, "Essential concepts necessary to consider when evaluating the efficacy of quantitative easing." Review of Financial Economics 22.1 (2013): 1-7.
[3] “OPEC 166th Meeting concludes”, Press Release No 7/2014, Vienna, Austria; 27 Nov 2014; http://www.opec.org/opec_web/en/press_room/2938.htm
[4] James Hamilton, Professor of Economics, University of California at San Diego, presentation on “Fracking, China, and the Geopolitics of Oil", at the Research Council, J.P. Morgan Center for Commodities (JPMCC), University of Colorado @ Denver, December 4, 2015.
[5] Bluford H. Putnam, “Oil Price Lessons from 1983”, Euromoney, December 15, 2014., and Bluford H Putnam, “Visualizing Energy Market Dynamics”, December 4, 2014, CME Group, also reprinted in the Hedge Fund Journal, December 2014.
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Bluford “Blu” Putnam(ブルフォード“ブル”パットナム)CMEグループ・マネージング・ディレクター兼チーフ・エコノミスト。中銀の政策分析・投資調査・ポートフォリオ管理を中心に金融業界で35年を超える経験を持つ。2011年5月より現職。世界経済情勢に関する情報発信で中心的な役割を担う。
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