Erik Norland(CMEグループ・シニアエコノミスト & エグゼクティブディレクター)
今年これまでの日経平均株価(日経225)は、主に2つの要因によって動いてきた。一つは円相場。そして、もう一つは原油価格である年初来の日経225先物価格は、日々の変動のおよそ55%がこの2つに起因している。
ドル円レートの変化は、日経平均の日々の変動に対して最も大きな影響を持つ。円が1%上昇するごとに、日経225先物は1.5%下落する傾向がある(図1)。日本経済は内需よりも輸出に大きく依存していることから、為替が大きな影響力を持つことは予想外ではない。
一方、原油価格の上昇は、少なくとも2016年のここまでにおいては、日本の株式市場にとってプラスに作用してきたようだ。これは奇妙なことかもしれない。なぜなら、日本はほぼすべての原油を輸入に頼っているからだ。日本はおよそ98%の原油を輸入している一方で、米国の株式市場と同様、日本の株価と原油相場の間にも「正の相関関係」が強く見られる(図2)。年初来のデータでは、原油価格が1%上昇するごとに、日本の株価は平均して約0.15%の上昇を示している。この数字は軽微に思われるかもしれないが、原油相場は今年2月の底値から2倍近くに上昇したことを忘れてはならない。仮に、こうした原油相場の反発がなく、他の条件がすべて同じであったとするなら、日経平均株価は現在の水準よりも15%ほど低くなっていた可能性がある。
S&P 500®指数の構成銘柄の中で、エネルギー関連株は7.4%の比重を占めている。そのため、原油価格と米国株との間に正の相関があることは特段の驚きではない。米国市場ではまた、素材と金融の関連銘柄においても、エネルギー価格に対する強い相関が見られる。S&P 500®指数の中で、この2つのセクターは合わせて20%程度の比重を占める。その他のS&P 500®のセクターは、比較的弱い相関ではあるが、それでも原油価格との間には正の相関関係がある。
米国の銀行はエネルギーセクターに対するリスクを多く抱えるため、今年の1月と2月に原油相場が1バレル=30ドルを下回った際には、信用度の低下に対する懸念が投資家の間に広がった。その後、原油相場が1バレル=50ドルの水準に回復すると、エネルギー事業者や銀行への不安が和らぐとともに、投資家はほっと胸をなでおろしたようだ。
日本の株価が原油価格に対して正の相関で連動していることには、いくぶん疑問が残る。日本は原油の生産量がほぼゼロであるため、株式市場に大きなエネルギーセクターが存在しないことは自然の成り行きであろう。日経平均の構成銘柄の中で、エネルギー関連株の比重は0.5%弱にすぎない。加えて、金融と素材の関連銘柄の合計は13%にとどまり、S&P 500®指数に比べると3分の2の比重である。その一方で、工業関連株の比重は日経平均の中で21.2%と高く、日本の株式はこれらの工業銘柄を通じてエネルギー価格の影響を受けているとも取れる。日本の製造業者の中には、石油の採掘業者に機材を販売している会社がいくつかある。また、日本の消費財メーカーは、自動車をはじめとする様々な製品をエネルギー生産国に輸出している。つまり、日本は安価なエネルギーから全体的な恩恵を受ける一方で、極端な価格の下落はエネルギー関連企業の収益を損ない、石油輸出国における日本製品の需要を減少させることによって、日本の企業利益を押し下げる要因にもなり得るということだ。
日本の株価と原油価格との間の強い相関は最近の現象であり、2016年の終わり頃にはおそらく解消へと向かうはずだ。しかし、この相関を強める要素があるとするなら、それは原油相場が今年初めの最安値を試すようなケースであろう。もしそうなれば、石油セクターに関連する金融・輸出関連の不安が再燃するだろう。季節調整済みの原油在庫が記録的な水準へと高まっている現状では、夏以降の原油相場に急激な調整が生じる可能性も否定できない。
今年はこれまでのところ、円と原油の日々の変動が日経平均株価を左右してきたが、株価の長期的な動向を決定づけるのは他の要因になる可能性が高い。金利は、日本の株式市場に影響を与えた要因と捉えられるはずであったが、奇妙なことに、短期的には影響を一切及ぼしていない。日本国債(JGB)の日ごとの変動に対して、日経平均株価の相関はほとんどゼロである。しかし長期的には、常に想定通りにはならないとしても、金利の水準が日本株にもいくらかの影響を与えることは考えられる。
アナリストが株式市場を評価する際には、長期国債の利回りと株式の益回り(1株当たりの純利益を株価で割ったもの)を比較することが多い。理論上は、金利が下がると株式のバリュエーションが高まるとされている。日経平均が史上最高値の4万円付近まで上昇した1989年には、日本株の株価収益率(PER: 株価を1株当たりの純利益で割ったもの。株式益回りの逆数となる)がおよそ60倍に達していた。これを株式益回りに直すと、わずか1.6%である(1/60倍)。当時、10年物の日本国債の利回りは6.6%前後であり、30年物の指標はまだ存在していなかった。要するに、日本株は国債に比べて大幅に過大評価されていた。日本の10年物国債は、1989年以降、リスクフリー・レート(無リスク金利)を140%上回るリターンを生み出してきたが、日経225先物はこれと同じ期間に、リスクフリー・レートに対して62.5%のマイナスリターンとなった。
そして現在のバリュエーションは、1989年とほぼ真逆の水準になっている。日経平均株価は16.1倍のPER、つまり6.2%の株式益回りである(1/16.1倍)。これに対し、日本の10年物国債と30年物国債の利回りは、それぞれ-0.15%と0.20%だ。もし今の日本にバブルがあるとするなら、それは株式市場ではなく債券市場であろう。円相場の急激な変動がないかぎり、日本の株式は今後何年かの間に、世界の他の市場と同程度のリターンを生み出すと考えられる。一方、マイナス金利がイールドカーブの15年付近まで広がる現状では、日本の国債価格がいつまでも上昇し続けるとは考えにくい。マイナス金利となっている国債を償還日まで保有すれば、必ず損が生じることになる。
金利は、ある一点において日本株を左右している。それは、マイナス金利が円安ではなく、むしろ円高を引き起こしていると思われる点だ。日銀が当座預金へのマイナス金利を導入した2016年1月29日以降に、円はドルに対して13%を超える上昇となった。全般的なドル安傾向も要因の一つではあるが、2016年1月29日以降、ブルームバーグ・ドル・スポット指数(円などの主要通貨に対するドル価格を示す指標)に含まれるその他の通貨との比較でも、円はおよそ9%上回る上昇となっている。私たちの回帰分析によると、この円高によって日経平均株価は20%ほど下落し、約2倍に上昇した原油相場がその影響の一部を緩和していたことが示されている。今後、円高の継続と原油相場の下落が重なれば、日経平均株価の主要な下落要因となるだろう。
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Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。
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