英国とフランス: 対極的な選挙の物語

4候補が熱戦を繰り広げた末に実施された4月23日のフランス大統領選挙の第1回投票とは異なり、近く英国で実施される議会選挙は一方的な結果になると見られている。英国の保守党に対する支持を過小評価する傾向が強い世論調査などでも、6月8日に実施予定の議会選挙に関する事前予想は、メイ首相が党首を務める保守党が一方的な勝利を収めるとの見通しに傾いている(図1)。

6月30日に再度、メイ女史が首相に就任するとするブックメーカーの掛け率が9対1とされる一方、労働党の悩める党首、ジェレミー・コービン氏が首相に就任するオッズは1対10とされている。また、保守党のかつての連立パートナーであった自由民主党(Liberal Democrats/Lib Dems)の支持率は、2015年の7%から11%ほどまで上昇しているものの、議会における存在感を示すには程遠い状況となっている。

図1: 一方的な結果が予想されている議会選挙

Figure 1: It’s Not a Nail-Biter.

前身の名前であるトーリー(党)とも称される保守党は現在、全650議席の下院で330議席を占め、僅かながら過半数を上回っている。メイ首相の保守党が、今回の選挙で直近の10の世論調査における平均値である46%の投票を獲得したとして、BBC自身が認める原始的な集計システムを使って試算すると、議席数は67増加し、397議席になると予想される。そして、この議席数の増加は、支持率を31%から25%に落としている労働党の議席減となることが予想されていて、同党の議席数は改選前の232から164に後退すると見られている。  

一方、支持率を7%から11%にまで上昇させている自由民主党は、最大でも、改選前の8議席に対して1、2議席を追加するに過ぎないと見られている。ただ、離脱反対で親EUの自由民主党は、昨年6月の国民投票でEU残留を選択し、その後の保守党に違和感を覚えるに至り、コービン労働党党首の煮え切らないEU残留スタンスに業を煮やしている有権者が期待を寄せる政党であり、今回の議会選挙における唯一のダークホースであると言える。しかし、今回の選挙に自由民主党が実質的な影響を及ぼすには、現状の2、3倍の支持率が必要となる。また、自由民主党の対極にあるイギリス独立党(UKIP)については、EUからの離脱という唯一無二の政治目標が達成されてしまっている状況にある。

選挙前の世論調査や期待値で一方的な結果が予想されるのは普通だが、結果として今回、実際に保守党が一方的勝利を収めたとしても、英ポンドの為替市場での上昇余地は限定的である可能性が高い。メイ首相が議会選挙を前倒しで実施する方針を示したとき、現政権が議席を伸ばすとの見通しも背景となり、英ポンドは昨年10月初め以来の水準まで買われる結果になった。それでも、同年6月に実施され、EUからの離脱を決めた国民投票以前の水準からは程遠いところにある(図2)。  

図2: 英ポンドは依然として安値圏で推移

Figure 2: GBP is Still in the Dumps.

英ポンドに山積する長期的リスク要因過半数を超えて議席を伸ばすことによって、メイ首相はEUからの離脱に関して存在する保守党内の意見の溝を調整しやすくなるかもしれない。ただ、だからと言って、これがEU側の交渉スタンスに影響するとは考えにくい。実際、離脱交渉の難易については、英国議会でメイ首相の保守党が確保している議席数よりも、EUを構成するメンバーのスタンスがより大きな影響を及ぼすからである。

これに関する見通しでは、イギリス海峡の向こう側にある、フランスの大統領選挙が大きな要因となる。現状の世論調査では、銀行家のエマニュエル・マクロン候補が扇動的なマリーヌ・ル・ペン候補を、大統領選でおよそ60対40とリードしており、5月7日の第2回投票に関しても、ブックメーカーは80%の確率でマクロン候補の勝利を予想している。また、マクロン候補はここまで、英国のEU離脱に関して、これを「犯罪行為」と評し、条件の留保や放棄などを通じて、英国が残留と離脱の両方から恩恵を受けることがないようにするべきであることを示唆している。端的に言うと、フランス大統領選におけるマクロン候補の勝利は、為替市場で危惧される「ハード・ブレグジット」を示唆するものとなる可能性がある。

一方、ル・ペン候補が勝利したとすれば、英国が離脱を交渉するEU自体が、その体を成さない状況となる可能性もある。もちろん、ル・ペン候補の勝利が現実性に乏しいことは事前の調査などから明白ではある。しかし、その可能性が無いと判断してしまうのは、時期尚早かもしれない。ル・ペン候補は既に、マクロン候補を富裕層の手先とし、生活感に乏しい都会のエリートとして批判を始めている。スキャンダルに見舞われた中道派のフランソワ・フィヨン候補は、第1回投票で20%の投票率を獲得している。ここで大統領選を終えた同候補は、第2回投票に向けてマクロン候補の支持を表明している。ただ、フィロン候補の支持がマクロン候補に集まる保証はない。さらに、第1回の投票では同様に20%近くの投票率を確保した極左のジャン=リュック・メランション候補や、5%近くを確保した国粋派のニコラ・デュポン=エニャン候補は共に、マクロン候補への支持を表明していない。

極右のスタンスを明確にする存在として、極左の候補に存在感を発揮してほしい気もするが、自由市場やマクロン候補の様な銀行家に対する懸念、そして根深い欧州懐疑主義など、両者の主張には重複する部分が多いのである。実際、ここ数10年の間に、フランス共産党からの党員流入によって、ル・ペン候補が率いる国民戦線党が活況を呈す状況ともなっている。そして、こうした極左から極右への党員の移動は、2017年も継続する様相を呈している。

予定されている討論会も、フランス大統領選と市場の流れに影響を与える可能性がある。 聡明で頭の回転が速いものの、マクロン候補の相手は、戦い慣れしていて狡猾なル・ペン候補である。マクロン候補がこの討論会で遅れを取れば、ル・ペン候補に対する20%のリードは縮小する。

端的に言うと、フランス大統領選の第1回投票の結果を背景に、ユーロや世界の株式市場で続いていた安堵の上昇は、短命に終わる可能性がある。同様に、比較的低価格に抑え込まれている英ポンドやユーロのオプション価格では、予想ボラティリティーが一段の上昇を見せることによって変化が生じるかもしれない(図3)。ボラティリティーが長期低迷入りしたと考えるよりも、第2回投票を前にしたこの平穏は、台風の目として認識されるべきなのかもしれない。

図3:ユーロと英ポンドの予想ボラティリティーは、依然として過去のピークを大きく下回っている

Figure 3: EUR and GBP Implied Volatility Still Far from Its Highs.

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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