日銀が7月29日に開いた金融政策決定会合は、多くの(特に日本国外の)市場アナリストを失望させた。株価支援のためETF(上場投信)の買い入れ額をいくらか上乗せした以外、何もしなかったからだ。この追加緩和は、株価には少しくらい足しになるかもしれない。だが、経済成長には何の足しにもならないだろう。また、インフレを煽ることもなさそうだ。事実、市場は即座に反応したが、それは円高ドル安だった。この展開は、おそらく日銀が望んでいたものではなかったと思う。
ただ、今回の日銀の不作為をどう解釈するかは注意を要するところである。
日銀はインフレ率を2%に戻すという政策目標を堅持すると明言した。
しかし一方で「金融政策の総括的な検証」をする時期にあるという認識も明らかにしたのだ。
これは良い知らせである。FRB(米連邦準備理事会)からECB(欧州中央銀行)、日銀に至るまで、中央銀行は、2010年に景気が回復し始めてから6年もの間、QE(量的緩和)として知られる資産の爆買いを続けてきた。しかも、事実上ゼロから若干マイナスの金利政策との合わせ技である。ところが、インフレ圧力はどこにも生まれていないし、経済成長の何の足しにもなっていない。つまり、こうした異例の金融政策は、経済成長やインフレ目標達成にまったく結びついていないのだ。できたのは、国債の利回りをゼロどころかマイナスの世界にまで引き下げたことである。
一方「Yahoo Finance」の記事で指摘したように、異例の金融政策は信用(クレジット)市場に「歪み」を生んでしまった。実際のところ、それが原因で金融危機後の経済サイクルは、一般に期待されたほど盛り上がらずにいる。経済を成長させるには、信用市場がうまく機能していなければならない。また、金利を低すぎる水準に押しとどめていたことが、年金基金の無謀な利回り追求を生んでしまった。しかも、退職者は自分のポートフォリオから期待したほどの収入を得られなくなり、そのため消費をさらに控えるようになっている。QEは債券市場を破壊し、信用市場の成長を不透明なものとした。そしてマイナス金利は、銀行の収益力を低下させた。景気拡大を支える銀行の貸付能力に制約を課しているのだ。
異例の金融政策は「歪みのトリプルトラブル」であり、経済成長を妨げている。この失策を見直し、再検討すべきであるのは、火を見るよりも明らかだ。
さて、安倍晋三首相は、かなり思い切った財政出動で追加刺激策をすると公言している。もっとも、その詳細がまだ不明とはいえ、これまでの経験則からすれば、やってますよアピールのほうが実際の刺激策よりもはるかに積極的であろう。おカネを融資の保証に投じても、刺激策として機能することはめったにない。それは保証を得たところに補助金を出しているにすぎないからだ。財政刺激策として機能させ、経済活動をより促進させるには、新たな真水を即座に経済に流し込む必要がある。しかし、新たな財政出動で2016年から2017年初めに経済に流し込まれる新たな真水がどれだけあるか、安倍首相は明確にしていない。
最後に、もうひとつ注意しておきたいことがある。もし新たな財政支出の資金源に日銀の国債購入が関与するようであれば、金融政策と財政政策のシンクロが生まれそうだ。そして、それが機能するかもしれない。最新の財政支出を支えるQEは、信用市場にある既発債の流動性を損なうことがないからだ。また、それが経済に即時の支出をもたらすことになる。新たな財政政策にこうした“悪魔”が潜んでいるのか、それが金融政策でどのように支えられるのか、要チェックだ。
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Bluford “Blu” Putnam(ブルフォード“ブル”パットナム)CMEグループ・マネージング・ディレクター兼チーフ・エコノミスト。中銀の政策分析・投資調査・ポートフォリオ管理を中心に金融業界で35年を超える経験を持つ。2011年5月より現職。世界経済情勢に関する情報発信で中心的な役割を担う。
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