ベテラン機関トレーダーのRich Excell氏が、既知のカタリストを中心に潜在的な高ボラティリティ市場における2つのE-mini S&P 500オプション戦略を概説します。 

  • E-mini S&P 500オプションを利用したストラドル
  • 週次オプションのカレンダー・スプレッド

世界では多くの相反する動きが見られ、極めて興味深い場所になりつつあります。わずか6週間で次のような動きが見られました。

  1. 企業業績は極めて堅調に推移しているにもかかわらず、株式市場は2桁%台の調整局面を迎えている。
  2. 短期金利市場が織り込む今後12ヶ月間の利上げ回数が3回以下から7回に増加。
  3. 欧州および世界のエネルギー価格に大きな影響を及ぼす地政学的な懸念

この局面を乗り切るのは大変なことです。特に、リスク資産のバリュエーションが2021年末時点でほぼ十分な水準まで達している状況を考えればなおさらです。  幸いにも、第1回から第3回までで、それぞれのテーマについて述べてきました。

一般的に、投資家やトレーダーは、こうした時期にコンベクシティ(ロング・オプション)をポートフォリオに追加しようとします。最初の論点から思い出して頂きたいことは、オプションは保険であるということです。保険の買い手は、このリスク管理ツールを道具箱に追加することになります。しかし、保険料は歴史に照らして割高になることもあります。こうした際、適切なスキルを持つ人であれば、この市場に参入して保険の売り手となって、別の方法によってリスクを管理することが可能となります。

相反するさまざまな動きが見られる中、多くの人にとっては、保険を売ることを考える時期ではないかもしれません。企業業績というカタリストがなくなったとはいえ、地政学的なストレスに限らず、他にも起こりうる事象は数多くあります。今後数週間は、中央銀行の利上げのペースや規模に影響を及ぼす可能性のある重要な経済指標がいくつか公表されます。インプライド・ボラティリティは、オプションのプライシングを行うトレーダーが、オプションの残存期間中に発生すると予想するボラティリティであることを忘れてはなりません。所与の期間における原資産の実際の動きのボラティリティであるヒストリカル・ボラティリティや実現ボラティリティと混同しないようにすべきです。この2つは異なるものですが、関連性があります。トレーダーは、実際に起こったことだけではなく、インプライド・ボラティリティの長期的な平均値に基づいても予想を行います。この2つを比較することで、オプション市場における不安感の高まり具合を確認することが可能となります。

図表 1: インプライド・ボラティリティとヒストリカル・ボラティリティの対比

図表1は、1カ月のインプライド・ボラティリティと、ヒストリカル・ボラティリティの20日間のローリング指標の比較を示したものです。右の図表は両者のスプレッドをグラフにしたもので、現在は過去3年間の分布の中央部に位置していることがわかります。将来的な動きはともかく、現時点ではオプションの価格が適正であるように見えます。

ロングESストラドルの例

デリバティブの授業では、戦略設計をする際に、まず次の3つを考えるように言っています。:

  1. 原資産の方向性
  2. そこに至るまでのボラティリティの推移
  3. 確信の度合い

これらを検討して初めて、構築すべきオプション構造の種類、ネット・ロングとするかネット・ショートにするかについて考えることが可能となります。今この質問をしたら、ほとんどの人は次のように答えるのではないでしょうか。

  1. どちらの方向に進むか分からない
  2. 乱高下
  3. 確信が持てない

これは、先に述べた通り、多くの相反する動きが見られることから予想される回答です。あなたの回答も同様なものであるなら、E-mini S&P 500(ES)オプションを用いたロング・ストラドルのポジションを考えてみてはいかがでしょう。

ここでは、米国の主要経済指標の発表と、次の連邦準備制度理事会(FRB)の会合が行われる3月18日に満期を迎えるものを選びました。さらに、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の対立によって起こる動きも、このポジションに利益をもたらす可能性があります。このポジションの損益分岐点は以下の図のとおりです。

図表 2: ロングESストラドル

この戦略の損益分岐点を考えるもう1つの方法は、原資産のグラフを見ることです。図表3において、赤い線はこのロング・ストラドルの損益分岐点を表しています。また、これらの線は、その変化によって、今年の相場のおおよそのレンジを表しています。追加の新情報がなければ、このストラドルは割高に見えるかもしれません。しかしながら、本当に新しい情報はないのでしょうか。ロシア絡みで何か起こらないだろうか。多くの人が言うように、オリンピックが終わると軍事衝突が起きるのでないでしょうか。金利の動きを左右するようなグローバル経済指標が発表される可能性はどうでしょうか。

図表 3: ES原資産

短期的な市場ボラティリティの見解を取引に反映させたいトレーダーは、原資産の価格変化に伴う構造的デルタの変化を取引することも可能です。ロング・ストラドルのポジションでは、安く買って高く売ることができるため、トレーダーは通常、取引日のうちに再ヘッジを検討します。相場がこのレンジに収まっていても、翌月に高値と安値の双方が繰り返し更新される場合、トレーダーはストラドルのコストを埋め合わせることができる可能性があります。ストラドルを買う場合のリスクと懸念は、市場が非常に静かで何も起こらず、オプション価格が満期時のゼロに向かって減衰していくことです。満期の2日前にFOMC会合が開催されるため、このストラドルの場合、時間減衰の通常の変動経路が遅延する可能性があると考えるのが合理的でしょう。

コール・カレンダーのロングの事例

このような相場では、トレーダーが方向感を持とうと思えば、他の表現方法もあります。オプション戦略を検討する際の質問をあらためて考えてみましょう。トレーダーはこれらの質問に次のように答えるかもしれません。

  1. 私はS&P500指数に強気です。
  2. ごく短期的にみれば、ボラティリティは高止まりが続く可能性があります。
  3. この見解に自信はあります。

強気の見解であれば、ロング・コールあるいはコール・スプレッド戦略を推奨できるでしょう。あまり確信が無い場合は、トレーダーはプットを売るほどの自信も無いということなので、オプション・プレミアムのネット・ロングを維持することになるかもしれません。最後に、短期的なボラティリティへの期待は取引全体のコスト引き下げを促し、より良いリスク対リターンのポジションを提供する可能性がもたらされます。

この例では、トレーダーは短期のボラティリティを活かして、3月4日期日で権利行使価格4500ドルのESコール(権利行使価格4500ドル)を売って、3月25日期日で権利行使価格4500ドルのESコールを買っています。なぜこのような取引を行ったのでしょうか。トレーダーは、強気ではあるものの、FOMC政策決定会合が終わる3月16日まで市場が持続的に上昇することはないと考えているのでしょう。3月4日までの週は、インプライド・ボラティリティが高まる可能性が高いと考えられます。これは、ロシア情勢に加えて、この週に全米供給管理協会(ISM)製造業景況感指数や雇用統計などの経済指標が公表されるためです。図表4を見ると、3月4日のインプライド・ボラティリティ(19.2)は3月25日のインプライド・ボラティリティ(20.4)をわずかに下回っていることがわかります。

図表 4: 3月のESカレンダー・スプレッド

いろいろなシナリオが考えられます。例えば、ウクライナ情勢が解決し、経済指標は軟調で、その結果、金利市場で見込まれている3月の50bp利上げの確率が低下するとしたらどうでしょう。その場合は、3月4日の期日前でも株式市場は上昇する可能性があります。このとき、トレーダーは権利価格が同じコールのショートとロング両方のポジションを持っていることになります。その結果、図表5のグラフの右側に示したとおり、ポジションは中立となります。下側の曲線は動きが早いケース、上側の曲線は動きが遅いケースを示しています。相場が上昇するまでの時間が長いほど、期待リターンは増加します。市場が直ちに上昇すれば、期待リターンは基本的にゼロとなり、オプションのネット・ポジションもゼロとなります。コールのショートが期日を迎えるまでに何の動きもない場合、トレーダーはより大きな利益が得られる可能性があります。

しかし、もう一つのシナリオがあります。ウクライナの状況が悪化したらどうなるでしょうか。3月4日までの週の経済指標が好調で、株式市場全体が下げ基調となったらどうなるでしょうか。この場合、どちらのオプションもアウト・オブ・ザ・マネーで期限切れになる可能性があります。ここでも、グラフの左側がこれらの動きを示しています。このような動きが見られるのが早ければ早いほど、トレーダーは不利になる可能性があります。しかし、紫の線で示されるように、トレーダーは満期時に投資したプレミアムを失うだけです。

最適な状況とはどのようなものでしょうか。これから3月4日までの間に、相場があまり動かないか、あるいは下落するかもしれません。その日、4500ドルのコールは無価値で満期を迎えることになるでしょう。その後、FOMCで3月に25bpだけの利上げが決定され、満期前の3月16日に市場が急上昇したとしたらどうでしょうか。この時、トレーダーには3月18日に期限切れの個別のコール・オプションのロングが残ることになります。トレーダーは、カレンダー・スプレッドを検討することで、このオプションのコストを60%削減することが可能となります。

図表 5: カレンダー・スプレッドの期待リターン

不確実性の高い市場で取引や投資を行う場合、トレーダーは、起こりうる結果とそれに伴うリスクを認識する必要があります。  また、以下について自問自答してみることもお薦めします。

  1. 方向感をどのように考えるか。
  2. そこへ至る道筋をどのように考えるか。
  3. その考えにどれだけ自信が持てるか。

これらの質問に答えることで、取引に対する考え方をいかにして投資に取り入れるかを決めることが可能となります。

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Rich Excell氏は、イリノイ大学ギース・カレッジ・オブ・ビジネスのファイナンス講師で、グローバル金融業界で30年以上にわたり上級管理者として活躍してきました。シカゴのウルヴァリン・アセット・マネジメント(WAM)のシニア・ポートフォリオ・マネージャーとして、グルーバル株式のロング/ショート・ヘッジファンド・ポートフォリオを運用しましたが、最近退職しました。WAM入社以前は、サトーリ・インベストメント・パートナーズのCIO兼パートナー、UBSオコナーのマネージング・ディレクターを歴任しました。イリノイ大学でファイナンスの理学士号を、シカゴ大学でM.B.A.を取得しています。1999年にCFA、2018年にCMTの資格を取得しています。また、Excell氏は、80カ国以上でダウンロードされているポッドキャスト「投資交流フォーラム(Investment Exchange Forum)」のホストを務めています。

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