5月15日、OPEC(石油輸出国機構)加盟国の中で輸出量トップに位置するサウジアラビアとロシアは生産量削減方針を更に9ヵ月延長して2018年まで持ち越し、石油価格の回復を図ることを表明した。しかしながら、この決定による市場の楽観主義は束の間に終わりそうである。過去に何度も指摘したように、水圧破砕技術の実現により米国はエネルギー市場において重要なスイングプロデューサー(価格の安定を図るために需給量の調整を行う産油国)となり、サウジアラビアを始めとするOPEC加盟国の影響を逓減するようになった。5月25日、OPEC加盟国はウィーンに集い生産量削減方針の更新を決定する予定である。2016年10月末より、米国による生産量は1日当たり約90万バレル増加し、OPECの生産削減量を相殺するほどになってきている。この生産量増加はウェスト・テキサス・インターミディエイト原油のフューチャー・カーブを極めて平らなものとし、1バレル$50近辺で値が保たれている(図1)。さらに、OPEC加盟国による生産量削減が米国生産量増加により相殺されるという事実は、原油の実現変動率(実現ボラティリティー)及び予想変動率(インプライド・ボラティリティー)の低下へと繋がる可能性がある(図2)。
エネルギー市場にとって重要な課題は、(1)米国における生産量はいつまで増加を続けるのか、そして(2)生産量はどれくらい増加するのかという点である。その答えは石油価格そして予想変動率にとって憂慮すべき結果を招く恐れがある。
弊社では、ベーカー・ヒューズによる掘削装置の週次変化と米国の総石油生産量の週次変化における相関関係について変数ラグを用い、下記の2つの時期(52週間)についてテストを行った。
掘削装置件数減少及び増加のどちらのケースにおいても、掘削装置件数の週次変化と米国の総石油生産量の週次変化における相関関係は、15週から20週後に最も強く見られることが分かる(図4、図5)。
この予測結果は、昨年度における米国の実生産量と密接に対応する。掘削装置件数は2016年5月下旬に最低レベルに達し、その後約4ヵ月後(17週間後)の10月下旬、石油生産量は長期的増加傾向に入った。実際には、掘削装置件数と生産量の相互関係は上記データが示すよりはるかに強いであろうと思われる。なぜなら、掘削装置の週次変化と米国の総石油生産量の週次変化にはそれぞれかなりの「雑音」が存在するからである。よって、相関関係が統計上それほど強く示されるということは驚くべきことである。
石油価格にとって最も重要なポイントは、掘削装置件数が過去数か月にわたり加速して増加を続けていることである。よって、たとえ油田掘削装置件数の増加が直ちにストップしたとしても、石油生産量はしばらく増加を続けるであろうと示唆される。
5月5日までの過去4か月(17週間)にわたり、掘削装置件数は529件から703件へと増加。174件の増加となった。それでは、各掘削装置からどれほどの石油を期待できるのであろうか?5月の掘削装置件数が増加以来、掘削装置1件の増設による米国生産量への影響は、平均約4ヵ月(17週間)後に1日当たり5千バレルを超える増加をもたらした。もしこのペースが保たれれば、過去4か月に増設された174件の掘削装置は、米国生産量を(すでに発生した同様の規模の増加に加えて)更に1日当たり87万バレル増加するであろう。その結果、米国総生産量は1日当たり1千万バレルのレベルに到達することになる。これは過去のピーク時における生産量を50万バレルほど超過するレベルである。これはOPECの生産削減量を1日あたり30万バレル超過する量となり、OPECにとっては悪い知らせとなる。
しかし、米国生産量が今後4ヵ月間で1日当たり80万から90万バレル増加すると考えるのは恐らく現実的ではない。まず第一に、全ての掘削装置の生産性が同様に高いと考えることは間違いだからである。2016年2月から5月にかけて石油価格が1バレル$26から$52へとはね上がった際、米国では掘削装置が慎重に再装備され始めた。恐らく、最も見込みのある地域に最も効果的な装置が装備されたであろう。掘削装置件数が引き続き増加し稼働するとともに、新しく増設される掘削装置の限界生産力が徐々に逓減することは当然予測される。
しかしながら、これまでに入手した証拠によると、生産性の低下は予測されているほどのレベルではないことを示している。昨年5月における掘削装置件数の回復を始まりに、新しく増設された各掘削装置は、17週間後には1日当たり約5500バレルの生産量増加をもたらした。12月に増設された各掘削装置は、限界生産を1日当たり約4500バレル増加したと見られる(図6)。万一このペースが今後2017年の春及び秋にかけて達成されず、例えば、新しく増設される掘削装置1件につき3500バレルのみの増加となった場合でも、米国生産量は第3四半期末までに1日当たり更に60万バレルの増加をもたらすことが期待される。
10月末以来の米国生産量である88万バレルにこれを追加すると、米国を石油生産ピークへと押し上げると同時に、OPEC及びロシアの生産削減量を完全に相殺することになるであろう。更に、もし米国の掘削装置件数が今後も増加し続けるならば原油生産量の更なる増加が期待され、米国パイプラインを経て1日当たり60万バレル以上の増加が期待されることになる。
米国生産量の今後の変化について公開されているデータに頼らなければならない場合と比較し、各油田に関する極めて詳細な情報を入手できれば、情報面において確実に有利であろう。とは言うものの、そのような詳細な情報を入手できない我々にとって、ベーカー・ヒューズの掘削装置件数の変化とその後の米国生産レベルの変化における関係を調査することは、米国生産量の変化を予測するための効果的なフレームワークとなるであろう。
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Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。
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