配当指数先物:知っておくべき5つの主要事項

  • 6 Aug 2016
  • By Erik Norland

低インフレ率で世界の成長が相対的に減速するなか、企業利益全体の伸びが多数の課題に直面し続けていることから、配当は一段と脚光を浴びるようになっている。そして、10年物米国債利回りが2%を割り込んでいるため、確かにS&P 500® 構成企業から得られる配当に対する関心が増している。さらに、経済が予想外の悪化すれば、配当は、名目GDP成長率の変動に対する穏やかながら潜在的なヘッジの役割を果たす可能性がある。

配当の主な原動力は、企業利益の伸びと配当性向である。経済的な観点から見ると、投資家が経済全体に対して予想する配当額は、以下のような式で定義できる。

配当総額 = (名目GDP) x (企業利益の対GDP比) x (平均配当性向)

つまり、配当総額は、名目GDP、企業利益の対名目GDP比 、平均配当性向によって算術的に算定される。

さらに、配当は、株式市場を評価する極めて優れた手段の一つである配当割引モデルの主要構成要素であり、このモデルは、株価のバリュエーションが将来の配当の割引価値に相当する(あるいは相当するはず)と想定している。

配当と配当指数先物に関して、念頭に置いておくべき5つの経済要因は以下の通りである。

1) 市場は、現在から2020年にかけて年率2.2%と、配当の伸びの減速を織り込んでいる。

場の織り込み具合に注目していく。2020年12月限の S&P 500® 配当指数先物価格は、49.85指数ポイントで、それに対して2016年12月限45.6指数ポイントを示している。これは、ここ10年間の最後の4年間が年率2.2%と小幅な伸びになることを示唆している。名目GDPの伸びは、それよりも少し上回るペース、おそらく年率約3.5%か4%で拡大する可能性があり、、実質成長率が1.5%~2.0%でインフレ率は同じ水準と想定している。次に、これは、配当を支払う源泉となる企業収益が、名目GDPよりも散漫な伸びを示す公算が大きいことを示唆している。

図1:株式投資家は、企業の見通しにより楽観的になっている

市場参加者は、配当に対する見方を修正しつつあり、かなり楽観的になっている。2月以来、2020年の配当のプライシングは、44.35指数スポイントから49.85指数ポイントと上昇し、上昇率は12%に達している。この上昇は、株式投資家が全般的に企業に対する見通しに楽観的になっており、S&P 500® 指数が20%上昇したことが背景にある(図1)。

2) 配当性向は不変ではない

図2:長期的な配当性向の変動、1960年以前よりも現在の方が構造的に低い

企業は利益を得ると、株主に還元するか、留保して利益を再投資するかのいずれかを選択する。目覚ましく急成長を遂げるハイテク企業などの一部の企業は、自社の利益のすべてを留保することを選択するが、大抵は一部を配当として支払うことを選択する。これらの配当性向は、長期的には大きく変動するが、景気循環との相関関係は必ずしも強くはない。配当性向は、1980年代の好況期に上昇したものの、1990年代の高成長期には低下した。また、2008年の景気後退期には大幅に低下したが、直近の景気拡大期には上昇した(図2)。

また、配当性向は、租税政策の変更に応じて変化する可能性がある。2003年、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領が配当支払の減税法案に署名して、米国議会が同法を成立させた。この結果、配当性向は著しい上昇を遂げた。

ついに、長期的に配当支払にも構造変化が生じる。1900年から1950年代終盤にかけて、配当は、企業の健全性を示唆する主要な役割を果たし、配当支払は、平均して利益の約3分の2に達し、残りのわずか3分の1が留保されていた。配当をバリュエーションと企業の健全性をを測る主要な尺度として市場が依存してきたのは、1930年代の厳格な銀行・会計規則の誕生前の利益の報告基準への不信感が要因にあったかもしれない。1950年代から1960年代にかけて、財務分析がより洗練されてきたことから、投資家は財務諸表への注目を強めたことで、配当は、企業の健全性のバロメータとしてあまり重要視されなくなった。それ以来、配当性向は平均40~50%程度に低下したが、セクターや企業ごとにかなリ多様である。 

3) 企業利益は、おそらく景気循環のピークを過ぎている

企業利益が対GDP比で10%を超えることは、まれである。同対GDP比は、2006年に一時期この水準に達したが、2011~2014年にかけて10%近辺で推移していた。その後、労働市場が逼迫して、賃金が上昇に転じた一方で生産性の伸びが鈍化し続けたことから、約8.5%で推移している。これらの要因はすべて、企業利益に対する下げ圧力となっている。配当にまわす企業利益の減少の影響は、その他2要因によって相殺されている。

  • 前年比約3.5%で成長している名目GDPの成長持続
  • 利益の50%を超えている配当性向の上昇

企業利益の対GDP比がピークに達して低下に転じると、株価が続伸することは注目に値することである。1990年代において、1997年に企業利益の対GDP比がピークに達したとはいえ、 2000年まで株価は上昇を継続した。その後の10年間では、2006年に企業利益の対GDP比がピークを打ったが、株価は2007年終盤まで高水準に達しなかった。同様に、今回は企業利益の対GDP比が2011~14年に頂点に達してその後低下し始めたが、S&P 500® 指数は上昇を継続しており、過去最高値を更新した(図3)そのため、企業利益のピークは、株価のピークが差し迫っていることを必ずしも示唆しているわけではない。とはいえ、ピーク後の利益は、株価のボラティリティー上昇期と相関関係にある場合が多い(図4)。

図3:企業利益は強気相場で株価のピークに達するかなり前のどこかの時点でピークに達する

図4:企業利益の対GDP比が低下すると、株式のオプションのインプライド・ボラティリテ

4) 配当は、株価指数よりも変動がかなり少ない

ボラティリティがテーマではあるものの、以下について検討してみる。1990~2015年までの25年間において、S&P 500® の配当の年間変動率は7.65%と、 S&P 500® のそれ自体の17.4%を下回っている。同様に、 S&P 500® 配当指数先物の上場開始以来、 2020年12月限のボラティリティ実績値は、年率6.5%となり、 E-Mini S&P 500®指数先物の15.8%を下回っている。

配当指数先物は、株価指数自体に投資するよりも、将来の企業のキャッシュフローにアクセスする変動の小さい手段となっている。労働市場の逼迫が続く見込みで単位当たり労働コストが上昇し、労働生産性の伸びが鈍化している中、企業利益の減少期に入っている可能性があるため、これは、特に興味深い。企業利益の伸びが低下に転じた場合、そして株式市場が過去と同様の方法で反応した場合、今後数年間において、構造的に株価のボラティリティの水準が高まりかねない。  

5) 配当指数先物は、名目GDPの変動と連動する可能性は高いと思われる

図5:配当は長期的にGDPにかなり緊密に沿って伸びていく

配当性向と企業利益の対GDP比は長期的に変動するものの、S&P 500® の配当支払は、1990年以来、GDPの変動率に約50%相関している(図5)。これは、同じ期間のGDPの年間変動率との相関がわずか0.1%にとどまる S&P 500® 自体とは著しく対照的である。これは主として、株価はGDPの将来の変動を予想するが、一方で配当は現状を反映する傾向がより強いためである。 

結論

  • 配当の主な原動力は、企業利益の伸びと配当性向である。
  • 企業利益の対GDP比は多様であり、配当志向は、景気循環と租税政策の影響を受ける可能性がある。
  • 企業利益は、低インフレと世界の成長低迷により厳しい状況にあり、そうした環境が株価のボラティリティの高まりにつながる可能性があるとはいえ、配当は、株価指数よりもかなり変動が小さく、年間変動率の半分をわずかに割り込んでいる。

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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