FXフォワードに対して、FX先物はコスト効率の高い代替え取引か?

  • 12 May 2020
  • By Graham McDannel and Phil Hermon

変化の勢い: 取引執行コストの改善は、OTC市場のFXフォワードを補完する追加的ソースとして、FX先物の存在感を高める結果になっています。

ここ数年、TCA(総コスト・アナリシス)が業界の中心的な話題となっているなか、最近では、その対象をFXとする場合が増えてきています。金融危機後の行為規範の課題整備を発端とする規制の動きはその後、一部のFXプロダクトがMIFID2(EUの第2次金融商品市場指令)の対象となる状況に至っています。管理下取引のFXプロダクトで世界最大の市場を展開しているCMEでは、こうした規制の動きに対して、市場参加者が対応を一段と進めている状況が観察されてきました。そして、こうした対応は現在、OTC市場のFXフォワードの流動性を補完する追加的ソースとして、市場参加者が一段とFX先物を考慮するようになっていること、さらに、UMR(非清算取引の当初証拠金)規制に伴うコストを軽減しながら、取引業務の最適化を如何に達成するかという詳細な議論に至っている、と認識しています。

UMR(非精算取引についての当初証拠金): 広範な議論の加速要因-

UMRに関して言えば、FXフォワードはAANA(平均想定元本)の計算に含まれるものの、必ずしも常に、議論の中心だったわけではありません。しかし、流動性の高い市場を確保し、取引を効率的に処理すると言う観点から、(日中取引が7,400億ドル超に上る)現物決済FXフォワードは、1TCA((取引コスト分析)に関連した広範な議論の中で、特に、少数の執行ブローカーを通じた相対取引によってFX取引の大半を処理してきた資産管理業界で、非常にタイムリーな話題となっています。

TCAには、手数料や証拠金の調達コスト、先物とOTCの呼び値スプレッド比較、通常サイズの取引における中心値の透明性など、いくつかの要点が存在します。しかしながら、上場FXのコスト効率を考慮する資産管理業界との話し合いで、常に議論され、最も重要と考えられる課題とは、流動性と取引の執行コストの2つであることが明らかになってきました。従って、本稿では取引執行コストに焦点を当て、相対取引されるFXフォワードの流動性を補完する追加的ソースとして、FX先物がこれまで以上に有効な手段となっているのかを検証していきます。

取引執行: アウトライトでの流動性とコストにフォーカス

トレーダーとしては最初に、新しいポジションを上場市場で構築するため、取引を執行する際のコストを理解したいと思うでしょう。これは、FX先物と相対取引のFXフォワードで、それぞれの買値/売値の呼び値の価格差(スプレッド)を比較し、さらに、それぞれの市場では「大口取引」を執行するのに十分な流動性が担保されているか、などを確認すると言うことです。

数量的な観点から言うと、上場FX先物の市場は、CMEのCLOB(中央指値注文帳)の明確なルールブックによってサポートされており、全ての取引参加者に対して確固とした実行性のある呼び値が提示されています。結果、トレーダーはCLOBを確認するだけで、FX先物で利用可能な流動性の一部を簡単に確認することが出来ます。トレーダーはその上で、この画面上の呼び値と、ブローカーから提示されているOTC市場の呼び値を比較することが可能です。

こうした分析の結果として、直近では、市場参加者のフィードバックから、FX先物に関してはMPI(最小の値刻み)に関する変更が行われています。この修正では、EUR / USD、JPY / USD、CAD / USD、MXN / USDなどの通貨ペア・アウトライトで、MPIが最大で42%縮小されました。これによって潜在的な呼び値スプレッドが改善され、これをヒットする場合の取引コストが軽減された事になります。

さらに、CLOBによって形成される市場での取引に関して、特に資産管理業界からの取引参加者に好評を博したのは、指し値注文を利用することが出来るという点でした。既存の呼び値(最高値の買い値/最安値の売り値)で取引するだけ、ではないのです。Greenwich Associatesの調査では2FX先物では取引執行の多く(平均して35%)が、呼び値スプレッドの中心値で執行されていて、ヒットする場合に有利となる呼び値スプレッドの小ささとは別に、指し値注文を使うことで、注文の執行コストの一段の軽減が可能であることを示しています。

Fトレーダーにとってはまた、取引発生後の市場がどれだけ早く流動性を再構築するか、さらに、日中レンジの幅も大事な考慮対象です。CLOBを介さずに(場外取引として)大口の注文を、特定の流動性提供者との間で執行する場合、こうした要素が重要となるからです3。これに関しては、CLOB上で見ることが出来る市場の深さを議論するのではなく、上場FX先物の日中売買高に加えて取引レンジなどを勘案することで、この市場が全体として持つ流動性の高さ、さらに、大口取引を執行する際のコストなどが把握しやすくなります。4.

指し値での取引が可能であることに加え、確固とした流動性と絶対的な取引の匿名性を担保したCLOBでは、取引参加者に、どちらかというと質的な便益も提供しています。計測することが難しい部分ですが、潜在的には、その他に比べても遜色のない市場価値です。こうした便益には、以下が含まれます:

  • 注文執行の確実性(取引を提供する場によっては、呼び値が参照ベースになっていて、ヒットしてもその価格で執行されるかは、価格を提示している流動性提供者の判断となる場合がある)
  • 提示されている呼び値は与信や建玉状況など、取引相手を個別に意識し、それに偏重したものではなく、透明性があり、全ての市場参加者に対して提示された価格となっている
  • 流動性の多様さ、そして潜在的な相対取引の可能性

取引執行: 価格発見の改善とロール取引の執行コスト軽減

これまで、主要なFX先物に関しては、限月交代に伴う四半期毎のロール(限月の移管)に際して、限月間スプレッドのMPI(最小値刻み)が、比較可能なその他のFX市場の価格から乖離しているとの指摘があり、FX先物の利用を進める上で最も大きな障害とされてきました。

これに対応するため、CMEのFX先物では、例えばGBP/USD, EUR/USD, JPY/USD, CAD/USD, AUD/USDなどの通貨ペアで、連続する限月以外の限月間スプレッド価格について、MPIを50%から60%縮小させました。MPIを縮小させたことで、市場の価格発見機能は向上し、市場参加者の多くに、取引執行に伴うコストの軽減がもたらさされました。取引コストの比較に貢献した、と言えます。

まとめ:コスト vs FX先物の利便性分析

上場されているFX先物と相対市場のFXフォワードには、いくつかの重要な違いがあります。そしてそのことが、両者の簡単な比較を難しくする場合があります。規制されていて、透明性が高く、取引相手を選ばない市場での取引であること、さらに、確固とした流動性が担保され、呼び値には取引の確実性が保証さていることなど、上場FX先物を利用することによる質的メリットは、多くの市場参加者にとって非常に重要な要素です。ただし、こうした要素は同時に、一般的な「コスト分析」のスプレッド・シートから見て取ることが難しいものでもあります。同様に、上場デリバティブを利用することで、取引相手に対する信用リスクを排除することが出来るという事実も、量的な実証が難しい要素です。ただ、業界を網羅する取引参加者との議論を通じて明らかになっているのは、市場活動においてその重要性が増している要素である、ということです。

連続しない限月間のスプレッド取引についてMPIを縮小するなどの変更は、FX先物のエコシステム拡大を促進し、資産運用会社が主導する形で、新規の取引参加者をこれまで以上に多く、この市場に導くこととなるでしょう。大口取引の建玉枚数は過去最大を更新し(2月25日), 日中取引(3月12日)の規模、さらにEUR/USDなどの通貨ペアに見られる建玉数(3月13日)などからは、取引参加者の多くがリスク管理ニーズに対応する上で、信頼性の高い、補完的で既存とは異なる流動性を提供する場としてFX先物を利用していることが分かります。

詳細について、または本書に記載されているテーマについてのご相談は、CMEアカウント担当者または fxteam@cmegroup.com までお問い合わせください。


著:
グラハム・マクダネル、シニア・ダイレクター、FXプロダクツ、CMEグループ
フィル・ハーモン、エグゼクティブ・ダイレクター、FXプロダクツ、CMEグループ-

出展

1. BIS Triennial Survey 2019
2. www.cmegroup.com/bright-future
3. https://www.cmegroup.com/trading/fx/files/pm2377-fx-blocks.pdf
4. 2020年第1四半期、CME上場のFX先物の平均日中売買総額は955億ドル相当でした。市場が大きく動いた日には、効率的なリスク移管に加えて、精算されるデリバティブ取引によって資本と取引相手のリスクが管理されていることから、主要プレーヤーがCMEのFX市場の利用を拡大し、日中の取引総額は平均の3倍近くまで増加しました。

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