エネルギー市場の動的力学を明示する

  • 4 Dec 2014
  • By Blu Putnam and Desiree Schwartz

本レポートでは主に、世界的規模で石油・天然ガス市場に強く影響する動的力学について、特に相対価格が変化する可能性の面から論じていく。現在の原油価格の下落は、いくつかの短期的な解釈によって、長期的な要因が組み合わされたことに原因があるとみている。

チャート1

米国とカナダでエネルギー生産ブームが始まったのは、2006~07年のことだ。以来、その生産ペースは維持されている。しかし、この供給増は、しばらく材料視されず、下げ圧力にならなかった。生産ブームが始まったころは、中国など新興国からの継続的かつ強力な需要によって大半が相殺され、またその後は、リビア、シリア、イラン情勢といった地政学的緊張によって相殺されたからだ。ところが、ここ数年は、中国の経済成長が大きく鈍化しており、また大半の新興国でも成長が劇的に減速した。欧州経済の低迷はいうまでもない。

米国とカナダでエネルギー生産ブームが始まったのは、2006~07年のことだ。以来、その生産ペースは維持されている。しかし、この供給増は、しばらく材料視されず、下げ圧力にならなかった。生産ブームが始まったころは、中国など新興国からの継続的かつ強力な需要によって大半が相殺され、またその後は、リビア、シリア、イラン情勢といった地政学的緊張によって相殺されたからだ。ところが、ここ数年は、中国の経済成長が大きく鈍化しており、また大半の新興国でも成長が劇的に減速した。欧州経済の低迷はいうまでもない。

北米での生産ブームと世界的な需要減が、原油下落のお膳立てとなったわけだ。しかし、そのきっかけは別のところからやってきた。中東情勢が悪化していたとはいえ、リビアやイラクで石油生産が再開され、また生産に大きく影響するような事件はなかった。それにもかかわらず、個人投資家はおろか、年金や基金といった長期投資家の多くが、運用資産の配分を上げ基調の株式に戻し、指数連動型ETF(上場投信)やETN(上場投資証券)など、世界のエネルギー価格に対して強気な立場をとるファンドから撤退し始めたのだ。

つまり、最近の石油価格の下落は、極めて投機的といえる。しかも、石油価格の下落を受けて、供給の調整が問題視されており、論点がずれてしまっているといえる。確かに、経済成長に基づく需要に対する実際の生産傾向だけに注目すれば、遅かれ早かれ価格下落に応じた減産が生じ、これが現在の下押し圧力をとどめるだろうと主張したくもなる。しかしこの見方は、どちらの方向にもリスクがあるのだ。

  • 第1に、資産配分に大きな変化があった場合、得てして実際の相場は、仮説的な需給評価を超える展開となりやすい。投資家の行動が考慮されていないからだ
  • 第2に、石油生産は短期的な値動きに反応しにくい。石油生産にかかるコストの大部分は、資本投資によるものだ。そして、こうしたコストは、1バレルの石油を増産するのに見込まれる限界費用の一部に(経済学の観点から)誤って織り込まれやすい。実際の石油生産をめぐる動的力学は、はるかに複雑であり、また実際の限界費用は、予想よりもかなり低いのだ。したがって、すぐに減産とはなりにくいだろう。
  • 第3は、逆の方向である。現在のところ中東(およびロシア)の生産は比較的良好だ。この地域で緊張があるにもかかわらず、中東の石油生産は高止まりのままにするという合意が心ならずもできている。しかし、突如として石油供給に衝撃が走り、大きな影響がもたらされる可能性を、低いとはいえ、無視できない。

原油価格が下落した理由に衆目が集まっているのは、よく理解している。しかし、エネルギー市場の内部で起きている動きについての私たちの解釈に再度、目を向けてほしい。短期的な現実とは相反するような強力で長期的な経済要因が、いくつか挙げられるのだ。エネルギーの世界は、再び変化し始めている。本レポートでは、私たちのお気に入りのチャートを紹介しよう。天然ガスと原油の相対価格、WTI原油とブレント原油のスプレッド、そして天然ガス価格の世界的乖離といったチャートから、水面下で起きていることを明らかにしていく。それは現在の世界的な石油価格の下落を理解するのと同じぐらい、興味深く、重要なことといえる。

BTU価格の不均衡

米国とカナダでエネルギー生産ブームが始まったのは、2006~07年のことだ。以来、その生産ペースは維持されている。しかし、この供給増は、しばらく材料視されず、下げ圧力にならなかった。生産ブームが始まったころは、中国など新興国からの継続的かつ強力な需要によって大半が相殺され、またその後は、リビア、シリア、イラン情勢といった地政学的緊張によって相殺されたからだ。ところが、ここ数年は、中国の経済成長が大きく鈍化しており、また大半の新興国でも成長が劇的に減速した。欧州経済の低迷はいうまでもない。

チャート2

米国の原油生産と消費の近況

米国には興味深い力学がある。原油生産がブームとなる一方で、石油製品の消費が減少しているのだ。米国では、原油は基本的に輸送用燃料に向けられる。石油製品の70%が輸送用だ。そして輸送でのエネルギー効率は年々向上している。

チャート3

輸出増加と輸入減少

米国では、原油の生産ブームと消費低下が組み合わさった果、原油輸入量が劇的に減少し、現在米国でとられている原油輸出の禁止措置に抵触しない石油製品の輸出が増加している。こうした生産・消費の変化から、原油輸出の解禁、あるいは少なくとも緩和に向けての圧力が高まりそうだと推測できる。

チャート4

チャート5

WTI価格とブレント価格の連動が回復

米国で原油生産ブームが盛り上がった2011~12年、米国内の石油供給が配給能力を上回ったものの、輸出が禁止されていたため、WTI価格とブレント価格の相関関係が部分的に途絶えてしまった。米国の強力な生産と貿易制限が組み合わさったことで、一時的かつ部分的に米国の現物石油市場が国外から切り離されたのだ。この切り離しを受けて、WTI価格とブレント価格のスプレッドは拡大した。しかし、それから数年は、この流れが逆転しており、スプレッドが狭まってきている。米国では、国内で生産された石油のかなりの部分が鉄道やパイプラインで精製所に運ばれ、石油製品の輸出が増加し、原油の輸入が落ち込んでいる。一方、欧州では、北海での生産が減少しており、景気低迷に陥っている欧州諸国からの需要は依然として弱い。米国が原油輸出の解禁に動けば、時には大きく相反し、急激に開く可能性さえあるものの、WTIとブレントのスプレッドは、平均するとゼロに戻ると思われる。

チャート6

チャート7

天然ガスの生産と消費の変化

米国での天然ガスの生産は、原油生産と同じくらいブームとなっている。しかし、対する消費の側では、消費も輸出も増加しているとはいえ、生産に比べれば緩やかだ。現在のシェールブームが始まった2008年以降、米国の年間生産量は4%増加した。一方、消費の伸びは2%である(EIA=米エネルギー省情報局より)。北米の天然ガス市場では、供給が極めて大きい。そのため、天然ガス価格が相対的に、とりわけBTUベースで安く引き下げられているわけだ。しかし、発電燃料を石炭から天然ガスに切り替える動きが相当規模で進んでおり、これが需要の伸びをけん引している。また、相対的に安価(BTUベース、チャート2を参照)な天然ガスの優位性を生かした産業利用の拡大がみられる。

しかも、パイプラインの敷設がさらに進んでおり、それを通じて、テキサス州からメキシコに運ばれる天然ガスは増加の一途だ。メキシコでは、発電燃料のディーゼルから天然ガスへの切り替えが進んでいる。同国もまたBTU価格の不均衡による恩恵を受けているのだ。先ほど触れたように、長期的には、天然ガスの液化施設が本格稼働し、その輸出も加速するだろう。こういった要素のすべてが、天然ガス価格を均衡させるために需要が加速度的に増大する可能性を示唆している。では、生産側には何が起こる可能性があるだろうか。

チャート8

天然ガスの生産が減速する可能性

生産面では、増加率が鈍化するかもしれない。メキシコ湾からアラスカ州に至るまで、またコロラド州・ワイオミング州に至るまで、主要な天然ガス田で生産が減少している。そして、テキサス州やルイジアナ州および周辺の州で、増加率が明らかに鈍化してきた。依然として高い増加率を維持しているガス田は、オハイオ州のウティカとペンシルべニア州のマーセラスだけだ。シェールガスは、その急激な生産増によって、従来のガスと置き換わっている。2007年にシェールガスが米国の天然ガス総生産に占める割合は10%にすぎなかった。ところが、現在では50%を占めている。

チャート9

チャート10

天然ガス価格の世界的な乖離

世界の天然ガス価格に乖離(かいり)が生じている。きっかけは、米国の生産ブームだ。その後、日本の東日本大震災で原子力発電所の運転が停止され、天然ガスによる発電に切り替わったことで、さらに乖離した。天然ガスの液化施設を建てるには、数年におよぶ時間と何十億ドルもの資金がかかる。そのため、世界的な価格の乖離は依然として大きいままなのだ。とはいえ、天然ガス液化施設の数、そしてより広い地域へのLNGの輸出量は、年々増え続けている。

この世界的な価格の大きな乖離は、液化施設の増加によって天然ガス市場のグローバル化が進むことによって、今後数年のうちに収まり始めるだろう。すでに日本の公益事業者やアジア諸国の買い手は、ヘンリーハブ価格に液化費用を上乗せした価格で、米国産LNGの長期買い入れ契約をぼうとしている。ヘンリーハブ価格に基づいてLNGを購入するということは、それまで石油市場の指標であった全日本輸入原油平均(JCC)でLNGを購入している日本の買い手に大きな変化が起こることを意味する。

チャート10

本レポートでは主に、石油および天然ガス市場に世界的な規模で影響を与え、相対価格を変化させる可能性がある重大な力学について関心を持ってもらうことに焦点を当てた。現在の石油価格の下落は、おそらく70%が供給によるものであり、需要によるものは30%にすぎないとみている。また、少なくとも短期的には、価格下落が生産に大きく影響することはないだろう。つまり、供給は引き続き拡大する。油田の開発が進み、インフラが構築されるからだ。さらに、1バレルの増産に対する限界費用の計算が、過剰に見積もられている。実際の費用はかなり低く、生産を継続する動機は依然として強いとみている。そして最後に、現在の全体的な石油価格の下落基調と、緩やかながら力強く展開している長期的な相対価格の動きをびつけると、エネルギー価格(特にスプレッドと相対価格)のボラティリティは、石油と天然ガスのBTU価格ギャップが縮小するため、これから数カ月、数年は増加しそうだといえる。

本レポートに掲載されている例はすべて、状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明を目的として使用しています。また、本レポートに記載されている見解は著者個人のものであり、CMEグループおよび関連機関の見解とは限りません。本レポートならびに掲載された情報は、投資のアドバイスまたは実際の市場経験の果とみなされるべきではありません。

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